初版の犀の来日。

東京の国立新美術館にルネサンス期をテーマにして選ばれたルーブル美術館の展示品がやってくるそうです。

デューラーの版画の犀の初版が来るそうで。観に行かれる皆さん、うらやましいです。

1515年の木版です。

わたしが存在を知ったのは子供のころで、河出文庫の澁澤龍彦の『幻想博物館』で読んだからです。この本をずっと大事にしています。子供のころの文庫なので字体が小さく、文庫は薄く、子供に手の届きやすい値段がついています。

澁澤龍彦によると、デューラーによる犀は1513年にヴァスコ・ダ・ガマがインドで生け捕りにしたものをマヌエル大王に献上した作品になるそうです。デューラーの木版でさえ実は模写で、ポルトガルの無名画家がスケッチしたものをそのまま木版画に再現したのだそう。

渋澤さんはヘルベルト・ヴェントの『物語世界動物誌』の記述を紹介するんです。

インドから欧州までの航海中に、船倉に閉じ込められていた犀は皮膚に角上の腫れ物がたくさんできてしまったそうです。皮膚病になってしまった犀の現実をつゆもしらずに、画家たちはそれが犀のあるべき姿だと思い込んで忠実に描いたんです。そして、様々な博物誌の本でもそのように描かれるようになり。それが本物を犀の図であると誤解が続いたみたいで。

そして、その真偽が判別しがたいと思うこともあります。犀は種類があるんです。クロサイ、インドサイ、ジャワサイ、スマトラサイにわかれていて、どの犀も人とは比較にならないくらいに厚い皮膚をもっていて、インドサイにいたっては鎧みたいなんです。デューラーの版画に少し似ています。

初版の通りかというと細部は違います。そして、澁澤さんの指摘通りにありえない角があるんです。インドサイは角はひとつですが。首から背中当たりにもう一本角が描かれているんです。16世紀の欧州では犀には角が2つあるというのが通説になっていて、通説のほうに引きずられてしまい、存在しない2つ目の角を書き込んだ模写が出来上がり、デューラーの版画にも引き継がれたのかもしれないのだそうです。澁澤さんは16世紀のフランス人外科医のアンブロウズ・パレの『ミイラおよび一角獣の説』(1582)の描写を引用するくらいです。

欧州における犀の登場はやはり古代ローマだそうで、円形闘技場に登場していたそうです。プリニウスの博物誌を澁澤さんは引用してきて、犀に角が2つあるなんて、非現実なことは言っておらず、円形闘技場でみたままの真実を淡々と語っていると、普段はありえない怪獣の列挙しかしないプリニウスがたまに見せる誠実さにも触れています。

エッセイの冒頭に、澁澤さんは東京のデパートの展示会で日本の画家、谷文晃が描いた洋画風の「犀の図」に触れるんですが。ヨンストン動物図譜を写したその絵画にも、もれなく背中近くに第2の角が描かれていて。

1663年に、長崎出島のオランダ商館長が徳川将軍に献上したヨンストンの『動物図譜』(1660年)もどうやら、バスコ・ダ・ガマがインドから持ち帰った病気の犀の模写が使われているそうなんです。

犀は皮膚の病気だったのかもしれませんが。

伝説の第二の角はなかったはずで。欧州でも日本でも誤解が延々と続いたのかもしれません。

見たかったです。デューラーの版画の初版の犀が。

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